binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

被疑者未だに不明

 

最近、とあるお友達に薦められた

昔のドラマにはまってしまって

暇さえあればそれを見ている

 

主人公の女の子がとってもかわいくて

脇を固めるキャラクターも良くて

主題歌もすごくいい

古い作品なんだけど

たいしてそれも感じず

毎日の楽しみになっている

 

昨日も仕事が終わって

いそいそと帰り支度をしていると

 

「ぬいちゃん、今日時間あるかな」

 

そんなに親しくもなく

あんまり話したこともない

K野さんに声をかけられた

 

 

「すみません、帰ってやらなきゃいけないことがあるんです」

(ドラマ見てえんだよ) 

「あ…そう、わかった…」

「何かご用でしたか?」

「いやー、あの…なんでも」

「そうですか、失礼します」

 

昨日はそれだけで終わった

 

 

私は速攻で帰って

風呂と夕飯と日課の筋トレ(腹筋割りたい)をこなし

ドラマを三時間ほど見続け

薦めてくれた友達にあのシーンのあれが良かった!ここもよかった!と

電話をかけて熱く喋り散らし

推しの配信を見てベッドに入った

 

これぞまさに週末

Thank God It's Friday!

他にやる事ねーのかと聞かれたなら

即答しよう

ない

 

そして今朝

ダラダラと二度寝して

起きてから風呂に浸かって

またドラマの続きを見ようと

いそいそと準備をしていると

メールがとどいた

 

「いま、近くにいます、少し出てきてもらえませんか?」

 

またK野さんからだ

 

 

えーやだ、めんどくさい

 

と思ったが、それが言えるほど

親しくもないので

「今日はあまり時間がない」と返すと

「明日なら平気?」と引き下がらない

 

「明日はもっと時間がなくて…」

どうせ宗教の勧誘とか

マルチとかだろうと、お断りする気満々でいると

 

「いま、もう〇〇公園にいるんで、五分で終わりますから」と。

 

こええええええええええええ

なにウチから一番近い公園来てんだよ

 

何人も同僚が同じ建物に住んでる

借り上げ社宅にいるので

場所はまぁ誰にでもすぐわかるのだが

来る行動力がこええな

玄関先に来られてもやだしな、と

行くことにした

 

 

「すみませんK野さん、お待たせして」

「いや、こちらこそごめんね、突然」 

「あ、いえいえ」

「お昼まだならご馳走するよ」

「え!」

「時間ないんだっけ」

「一時間くらいなら平気です!」

 

 

妙にでかい包みを持ったK野さんについて

カフェレストランに入り

エビがいっぱい入ったグラタンを

おごってもらった

うめえ

 

「あのさ…今まで

ぬいちゃんとは、あんまり喋ったことなかったよね」

「そうですね」

「だから…最初はちょっと驚いたんだ」

「なにをですか?」

「ば…バレンタイン…///」

「はぁ…( ˙꒳​˙ )」

 

今回のバレンタイン

私は会社の人には一つもあげてない

義理チョコすら配ってない状況だったので

「もらえなかったことを驚いたのかな?」

と、思った

 

K野さんはモテるほうなので

他の女性からたくさんチョコを貰っていた

だから

「ぬいてめえ、ザコのくせに

何故俺にチョコをよこさなかったんだ」と

文句が言いたいのかと思った

 

「今回は一人しか渡したくなかったんです、すみません」

「そ、そうなんだ…///いいと思うよそういうの」

「あ、はぁ…」(なんの話やこれ)

 

わざわざ呼ばれて、なんやこの状況

わけわからんし、さっさと食うて帰ったろ

と、もりもり食べ進めていると

 

「遅くなったけど…あ、いやずっと会社には持って行ってたんだけど

普段話さないから全然チャンスなくてさ」

 

さっきの包みが出てきた

 

「え、これは…?」

「ぬいちゃんに似合うと思って」

「にあ…?」

「うん」

 

中からピンクの小ぶりなバッグがでてきた

わけがわからない

 

なぜ、あまり話したことも無いひとに

バレンタインチョコあげなかったからって

バッグがもらえる状況がうまれたんだろう

 

私が恋愛イベントから

長く遠のいているうちに

ルール改正されたんだろうか

 

私は驚いたりすると

状況が飲み込めるまで

じっと考え込むクセがあるので

そのバッグをみつめて

じーーっとしていた

 

「趣味あわなかったかな…」

「え?あ、いえ、可愛いですね」

「ほんと?気に入って貰えたら嬉しいんだけど」

「あ、あの、でもなぜ私が頂けるんですか?」

「や、その…お礼はしておきたくて

いきなり付き合うとかはさ…俺たちあんまり話したこともないじゃん?

まずは仲良くなってみようと思って」

「お礼?」

「うん…」

「なんの?」

「ちょ、ちょこ…///

あ、でもとりあえず友達から…ね!」

 

 

私じゃない、しかもなんか

フラレている

 

くっそおもしろいやんけ

この野郎

 

状況がやっと飲み込めた

K野さんは私に告白されたと思い込んだのだ

いや誰だよ私の名前でチョコなんか贈ったやつ

私の本名はものすごくありふれていて

Facebookで検索すると240億人くらい出てくるので

そのせいかもしれないけど

「お友達から」ってのがまたいいじゃないか

 

 

「私じゃないですよ」と伝えた時の

K野さんの反応も面白かった

鼻から水出して驚いていた

 

「ごめん!カードに苗字しか書いてなくて

てっきりぬいちゃんだと思って」

「私と同じ苗字同じフロアだけでも十人いまっせwww」

「でも他の人って全員男性だよね…」

「………新しい世界が広がりましたね!」

「広がりたくない」

 

結局、誰がK野さんに

チョコを贈ったのかはわからずじまいで

持って帰っても、使い道がないとのことで

バッグはそのまま私が貰えることになった

 

K野さんはこれ以上は

送り主が誰なのかは探さないそうだ

誰が判明しても怖いから

 

 

さっき解散して帰ってきたので

私は今からドラマの続き見ようと思う

 

 

今日のまとめ

告白してもいないのにフラレた

あとタダでバッグもらえてシーフードグラタンおごってもらった