binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

金木犀の匂いが大好きだった

 

転校ばかりだった子供時代

父も母も忙しくて

私は引っ込み思案で友達も少なく

音楽室でピアノを弾いたり

図書室で本を読んだり

週に七つのお稽古ごとをしていたせいもあり

外ではあまり遊ばない子供だった

 

言われた事を素直に信じていれば

それが正しいと思っていたし

世の中は正しいことと、正しくないことで分けられると思い込んでいたし

私は正しく生きねばならないと思っていた

 

ゴミは拾わなくてはいけなくて

子供は九時には眠らなくてはいけなくて

ピーマンは残してはいけなくて

宿題を忘れるなんて万死に値する行為と信じていた

 

 

一度だけ忙しい父が

金木犀の香る日曜日に

授業参観に来てくれたことがある

 

申し訳ないな、と心から思った

だって私は、パパの本当の子供じゃないのに

 

私は幼稚園の時

ママに打ち明けられたことがある

ぬいちゃんの本当のパパは

俳優の〇〇さんよ、って

 

ああ!そうなのか!

ママが言うからには違いない!

そういえばママは〇〇さんがテレビに出ていると釘付けだ

かっこいい!だいすき!といっていた

子供というのは

大好きな人との間にできると

親戚のおばさんが言っていた

私が〇〇さんの子供なのも頷ける

 

 

じゃあ今一緒に暮らしてるパパは、だれなんだろう?

そんな風に、ずっと悩んでいた

 

 

「パパ、ごめんね」

 

「なにが?」

 

「お仕事忙しいのにぬいのために来てくれて」

 

「今日は休みだよ」

 

「でも、あんまりお休みないのに

大変だったでしょう?」

 

「子供が気にすることじゃない」

 

「ぬいは本当はパパの子供じゃないんでしょう?」

 

「どっからどう見ても俺の子だろう、俺の妹にそっくりじゃないか」

 

「え!わたしパパの子供なの!?」

 

「そうだけど」

 

「なーんだ!」

 

 

 

その日の夜、母が怒られていた

怒られてるのに、母は爆笑していた

怒られてる時は、相手の話を真剣に聞かないといけないんだよ、と

こっそりおしえてあげた

 

二つ下の妹に

「姉ちゃんてほんとにそれ信じてたんだ、ばかだね」

と、いわれた

 

むかついたので、こっそりと

妹の机に鉛筆で「ばか」と書いてやったら

翌日油性ペンで「おまえのほうがばか」と、書かれていた