binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

短編日記「この胸の苦しみ」

いつも俯いて通る道で

見上げるほど高く育った緑の茂りが

夏の訪れのほど近さを教えてくれた

 


南国の甘い花のように

気道に灼けつく、クチナシの香りは

濡れた空気をかき分けながら

遠慮なく密度を増して迫りきて

私は目眩にも似た感覚をおぼえる

 


ああ、この苦しさ

ちょうど太陽が南天を指した頃にも

感じたのを思い出す

 


あの瞬間の私は

忙しさに心を殺されて

そんなことに何かを注ぐなんてしなかった

 


だけど今はわかるよ

この胸の苦しみをもたらしたものが何かを

 

 

 

「気づかれなくてよかった」

 

 

 

今日の服

後ろ前だった

 


もう帰るだけだし

いいべ

 

 

 

(この後わたしは、電車で小学校の担任に15年ぶりにあい

ぬいちゃん、お洋服前後ろ逆じゃない…?と指摘される)