binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

誘拐されやすいタイプ

 

皆さんの中にもご存知の方はいらっしゃるでしょうが

私は、自他ともに認める好奇心でいつか死ぬタイプです

 

もう、一年近く前ですが

ファミレスで偶然同席した女性と

初体験をしたお話でも

 

 

ある平日の昼下がり

私はどうしても二時までに上げなければいけない仕事があり

昼休み返上でなんとかそれらを終えて

遅い昼食を取っていました

 

遅いといっても、まだまだランチタイム

周囲は満席で、店内は賑わっています

一応ビジネス街なので

そろそろ波は引いてもおかしくない時間でしたが

今日は意外とお子さん連れの奥様方が多いようで

席の空く気配はありません

 

「四人がけの席に案内してもらって悪かったな、早く出よう」と思いながらも

なにぶん食べるのが遅いもので

必死に料理をかきこんでいると

 

「えーすごいお腹すいてんのにー」と

店員さんをどやす少し派手な女性が

 

 

「申し訳ございません、他にはお待ちのお客様いらっしゃいませんので

お席がご用意出来次第ご案内いたします」

店員さんが頭を下げても

「長居してるおばさんとか追い出してよー」

「何時間もいるやつとか店からしたって邪魔でしょー?」

彼女は退きません

 

 

「おお、なんとハートの強い女性だろう」

私はつい、物珍しさで彼女を見ていると

「ねえ、そこあいてるじゃん」

彼女が私を指さします

 

「ねー!ひとり?相席とかだめかな?私いますぐ食べたいの!なんならおごるからさ!」 

「あ、お客様!」

 

一人で悠々座る私に目をつけた彼女が、一直線にやってきました

 

「すわっていい?」と言うや否や、もう座っています

 

私はと言うと、さすがコミュ障

「あ、あの...えっと...」としどろもどろでおりましたが

どうしていいかわからなくなってる店員さんがなんだか気の毒なのと

「友達にはいないタイプだし、この先の展開を見てみたいな」という好奇心に負けて 

「じ、じゃあ...プリンおごってくれるなら」

 

オッケーしてみました

 

 

彼女はセリさん(仮名)

介護士の勉強をしながら、夜のお仕事をされているようで 

年齢は私の三つ上

偶然にも私とは家が近く、最寄り駅が隣同士なことから

意外とスムーズに話は弾み

最初は他愛もない話だったのですが

なかなかオープンに自分を表すセリさんに

少しおもしろさを感じていました

 

「なんかさ、この場でさよならしたくないなー

ぬいちゃんラーメンすき?」 

「はい、嫌いではありません」

「今度一緒に食べに行かない?」

「え…?まぁ構いませんよ」

「辛いものは?」 

「はい、大嫌いです」 

「そこは気をつかって、ちょっと苦手とか言うでしょ(笑)」

「すみません、とても苦手です」

「えーでもさ、激辛ラーメン食べに行かない?」

「いきません」

「あんたほんと愛想なくておもしろい」

 

 

変な人だなぁと思いながら

その日は電話番号だけ交換して別れましたが

その晩から20回くらい電話があり 

どうしても、どうしても食べさせたいラーメンがある、と言うので

「激辛は絶対お断り」と、告げると

激辛では無い、とあっさり話が変わったので

その週の金曜日に、待ち合わせをしていってみることになりました

 

 

「ぬいちゃーん!」

「セリさん、先日はプリンご馳走様です」 

「今日も美味しいものおごっちゃう」

「いえ、自分で払います」 

「いいから!今日は私のおすすめコースに黙って付き合って!

そんで次にぬいちゃんのおすすめコースおごってよ」

「はぁ...わかりました」

 

とある繁華街での待ち合わせ

私は会社帰りでスーツでしたが、セリさんはとってもラフなTシャツ姿

「ちょっと店に電話するね」と言うので

席の予約かな?と、黙ってうなづきました

 

「あ、すいません今から二人大丈夫ですかー?」

やっぱり、席をとっといてもらう必要のあるお店なんだな

わざわざ人と待ち合わせて予約入れるラーメンを食べるなんて初めて!

 

こんなにラーメンを薦められたことなどないので

否が応にも期待は高まります

 

「えーと、今⚪⚪ビルの前でー

水色のTシャツと短パンで

もう一人は濃いグレーのパンツスーツですねー」

 

服装まで言うんだ ...

まぁそういうもんなのかな

 

「席空いてた!」

「ほんとですか、よかったです、じゃあ向かいましょう」

「あ、今からお迎えがくるよ」

「へー、すごいサービス精神が豊かなお店ですね」

「え、ふつーだよ?」

 

ふーん、そういうもんなんだ...

 

二分ほどで、汗だくの黄色いTシャツ姿の男性が現れ 

「すいません!お待たせしました」

深々と頭を下げます

 

「おっそーい!待ってたよーなんでTシャツ姿(笑)」

(いや、全然待ってない、遅くない)

「じつは今日イベントやってて、全員でお揃いのTシャツ作ったんすよー」

「えー、そうなのー」

 

随分と店員さんと懇意なんだな

セリさんもしかして辛くないラーメンも好きで、よく通われてるのかな?

 

楽しげに談笑する二人について行くこと約100メートル

黄色のTシャツの店員さんは

私にも気を配って下さり、段差があるから気をつけてなどの会話をしながら

とあるビルのエレベーターホールに案内されます

 

「ラーメン屋さんて言うから1階にあると思ってました

上の階にひっそりあるなんて、隠れた名店ってかんじですね」 

 

「はい」くらいしか喋ってなかった私が

上昇するエレベーターの中で初めて口を開くと 

店員さんは「ん?」と首をかしげ

セリさんは笑いながら

 

「まだラーメンじゃないよ、ラーメンを美味しくするための前哨戦(笑)」と

目的の階についた私を扉から押し出し

身分証を出すように言われました

 

 

 

 

ホストクラブでした

 

 

空腹は最大のスパイス、とか

甘いものは別腹!とか

食に関していろいろ聞いたことはあったけど

ラーメン食う前にホストクラブなんて

聞いたことねーーーー!

なんで会って2回目の人とホストクラブーーー!

 

って私は叫びました、胸中で

あくまで胸中だけでひっそりと

誰にも聞かれぬまま

 

つづく