binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

新年会のこと(後編)

 

(前回までのあらすじ) 

不思議なことに、前回を読むとわかる

 

※※※

 

みんなと別れた我々はタクシーに乗った

私が命にかかわる、大切な用があるので

絶対24時までに帰りたいの!と

ゴネたので、私の家から近いところに行き先は変更された

 

私「この三人で飲むなんて初めてだね」

ジ「三人になるのも久しぶりだよね」

ゆ「前回は三人でドライブいったね」

私「ゆうちゃんが免許とった時だっけ、あの時は今舌をかんで死ぬか、後で事故死するのかさんざん悩んだよ」

ジ「僕も保険金を増やして置こうか悩んだよ」

ゆ「その話を続けるなら保険金増やしておけばよかったと、今から後悔するよ」

ジ「すいませんでした」

私「命ばかりはお許しください」

 

なごやかに談笑しながら

店を検索する

 

ゆ「正月でやってない店も多いなー」

私「ジュンくん、どんな雰囲気のお店がいいの?」

ジ「賑やかなほうがいいかなぁ、支払いは全て僕がもつよ、最近憂鬱でさ」

ゆ「犬と呼んでください、どこまでもお供します」

私「わんわんわわーん」

 

繁華街でタクシーを降りると

とりあえずやってそうな店を探してあたりを見回す

 

ゆ「居酒屋くらいしかないかなー」

私「わたし、おとうふたべたい」

ジ「それは逆方向(笑)」

ゆ「ぬいちゃんが推し推しうるせーんだろ、豆腐か推しかどっちか我慢しろ」

私「お豆腐がまんする」

 

しばらくウロウロしていると

「寄ってかない?」と

190くらいあるドレスを着たオカマの人に声をかけられた

 

私「わー、キレイなドレス!それにとってもジャイアント!」

ゆ「どっから突っ込んでいいかわからない」

ジ「う、うん」

 

彼女はアレクシスさん(仮名)、31歳

近くのお店の従業員さんだという

 

私「いきたーい!いきたーい!」

ゆ「私もー」

ジ「僕初めてだ緊張する」

ア「じゃ、ごあんなーい」

 

ジュンくんはもう少しごねるかと思ったけど

あっさりと同意し

アレクシスさんの後ろに続き

細い道を入ってテケテケすすむ

 

ア「あんた達見たところ、なんの集まりかわかんないわね」

私「私たち全員いとこ同士だよ、彼が長女の息子、私が次女の娘、この子が末っ子の娘」

ゆ「さっきまで親戚みんなで集まってたんだ」

ア「仲いいのねぇ、羨ましいわ」

私「アーちゃんは正月早々お仕事なんてえらいね」

ゆ「開始1分で雑なあだ名つけんなよ」

ア「実家なんて歓迎してくれないのよー」

私「へー、なんかやらかしたの?」

ゆ「お前それ聞くか」

ア「オカマだからよ(笑)」

私「べつにいいじゃんね、オカマなくらい」

ゆ「そういえば、ぬいちゃんが他人と親しげに話すのめずらしいな」

私「この人なんか好き♡」

ア「嬉しいわ!でもアタシは男が好き」

ジ「ぬいちゃんとゆうちゃんの順応性の高さに驚くばかりだよ」

 

ネオンの光に照らされた

怪しい一軒のお店にたどり着いた

入口からして狭くて、ちょっと入りづらい

魔女でも住んでそうな佇まい

 

ア「つれてきたわよぉー」

ゆ「つれてこられてやったわよぉー」

私「初めまして!おとうふありますかー!」

ジ「な、ないよ、たぶん…」

 

店内はそんなに広くなくて

カウンター6人程度

4人がけのテーブル席が6つ程度

全体的に暖色系でまとめられてて

キレイなドレスの女性ばかりの中、カウンターに一人だけ

男性が立っている

 

一人一人にオカマさんがついてくれるらしく

私はアーちゃんがいい!と隣へ呼び寄せ

ゆうちゃんの隣には

イカついけど美人なトモエ姉さん

ジュンくんの隣には元男だなんて信じられないくらい

べっぴんさんな、なぎさちゃんがついてくれた

 

ア「あんた達名前教えなさいよ」

私「名刺あげる、私⚪本ぬい」

ゆ「名刺もってねー、岡田ゆう」

ジ「名刺どうぞ…加藤ジュンです」

 

アーちゃんに名刺を渡すと、アーちゃんも

キラキラのかわいい名刺をくれた

アーちゃん名刺までかわいい!

 

私はすっかりアーちゃんになついてしまった

でっかくて、キラキラドレスで

いい匂いがするアーちゃんとってもはかわいい

 

ゆ「ぬいちゃんが他人にこんなに懐くの初めてみたかも」 

私「失敬な、単に好き嫌いがあるだけで懐くくらいするわ、圧倒的に大多数が嫌いなだけで」 

ゆ「ぬいちゃんオカマが好みなの?」

私「こういうお姉さんがほしい」

ア「自分で言うのもなんだけどオカマを姉にって変わった子ね、この子 ずっと元気はいいのに真顔だし」

 

私は小さい頃からお姉ちゃんが欲しくて欲しくて仕方なかった

お姉さんに囲まれる状況がたまらなく好き

テンションはうなぎ登りだ

 

 

お酒は飲めないといったら

りんごジュースを出してくれたので

出してもらったお菓子を食べながら

小さい頃のお友達との誕生パーティーみたいな雰囲気で

女だらけのおしゃべりが始まった

 

ア「みて!女ホルの成果で最近おっぱい出てきたの!」

ゆ「は?女性ホルモン打つと胸でかくなんの?」

ト「なるわよー、あたしは入れてる(所謂、豊胸のことらしい)けど

入れる前もまぁまぁあったし、あんたも打ちなさいよ」

ゆ「今からでも行きたいわ、どこだよ紹介しろ」

私「じゃあ男性ホルモン打つとおっぱいて小さくなるの?」

ア「おっぱいというより全体的に引き締まるわよ

あと、すんげーすね毛はえてくる」

私「すね毛はいらねー」

 

アーちゃんご自慢のおっぱいを見せてもらったり

トモエさんの一番お気に入りのパンツを見せてもらったりしながら

好きな俳優さんの話をしたり

アーちゃんの恋バナをしたり

 

今まで訪れた、夜のお店で

ここが一番楽しかったかもしれない

この、女四人でくだらないことに花が咲く感じ、大好き

 

私「あれ、そういえば」

 

私はあることを思い出した

ジュンくんだ

新年会でぜんぜん話せなかったし飲み直そう

最近憂鬱なんだ、といってた

今日のスポンサー様

 

チラリと右を見ると、ジュンくんは少しうつむいて

なぎさちゃんが彼をはげましているように

手を握っていた

 

いやほい!

従兄弟が嫁以外との女性といちゃついとる!

どうしよう! やめろ!っていうべきかな

あと、ジュンくんと全然話してねえー!

 

ア「ぬいちゃんどうしたの?」

ゆ「トイレか?」

ト「御手洗ならそこの通路の奥よ」

私「う、うん…」 

 

べつに行きたくもないのに

トイレに立ってしまった

とりあえず通路のカーテンにひそんで

ジュンくんと、なぎさちゃんを見守る

雰囲気は何やら深刻そうだ

 

 

「アンタ、どしたの?」

背後から声をかけられた、別の席のオカマ、ケイさんだ

 

私「と、といれ…」

ケ「あー、待たせてごめんね、もう空いたわよ」

私「あ…あい…ありがとう」

ケ「ところであんたって」

私「(やべえ、不審だったかな)」

 

 

ケ「オカマ?」

私「ちがいます!!!」

ケ「ごめんごめーん、新入りかと思った」

 

別に行きたくもないトイレから出ると

なぎさちゃんが、ジュンくんの肩にもたれ

ジュンくんも、満更でもないように

肩を抱いていた

 

いけませんでしょ!妻帯者でしょ!と

引き離しにかかろうと思ったが

ゆうちゃんに「野暮なこたぁすんな」と止められた

 

ゆ「ジュンくんねー、奥さんに離婚せまられてるらしいよ」

私「ままままままじ」

ア「男と女っていろいろあんのよー、ぬいちゃんにはなさそうだけど」

ゆ「いやこいつ、見かけによらずレアなステータスついてる」

私「んふふ、モテなそうだからってナメないで頂けるかしら」

ゆ「モテないは事実だよな」

私「うるせーよてめーもだろ」

ゆ「否定はしねーよ」

ト「奥さん他に男ができたらしいわよ、ぬいがうんこしてる間にジュンくん泣いてたわ」

私「ぬいちゃんうんこしないもん!」

ゆ「それはむりがある」

私「自分でもそう思うすまんかった」

 

ジュンくんの奥さんは、大学時代ミスコンを荒らしに荒らした

とっても綺麗な人で、忙しいジュンくんが家を空けがちで

寂しかった、と言ったそうだ

 

ジュンくんと話そうにも

すっかりなぎさちゃんと二人の世界

 

私は隣のテーブルから

バントのサインや、唯一喋れる

「私は本を読んで感動しました」と言う意味の、

手話などを何回か送ってみたが

何の反応もなかったので

アーちゃんと、トモエ姉さんと連絡先を交換して

どこどこにかっこいい店員がいるとか

そこに今度飲みに行こうとか

そんな話でタイムアップした

 

ジュンくんは寂しかったのだろう

神奈川にある、彼のしゃらくせえ大きなおうちに

いま奥さんはいないそうだ

そこに帰りたくなかったから

私たちを誘って賑やかな店に来たのだろう

その気持ち、なんとなくわかる気がする…

お互い大好きで結婚してもわからないもんだな

なんか悲しくなるな…

 

 

「でもそれとこれとは別問題!

私は推しが一番だいじなので

帰りますばっばーーい!お元気でね!

ごちそうさまでした!」

 

元気にタクシーに飛び乗って帰宅した

 

ゆうちゃんと、ジュンくんは

延長して朝まで飲んだそうだ

そしてなんか、なぎさちゃんとジュンくんは

飲み友達になったそうだ

そして、ちょっといいかんじらしい

 

人生どこでどうなるか、わからんもんやなぁ

と、おもった。

 

そして、推しというものは、強い(確信)

帯谷しゅん (@obisan0309) | Twitter←しつこいようだが、推し