binary ghost

どこにでもいて、どこにもいない二進法の幽霊

スンをドゥブる人

 

友達は今日、休みらしくて

仕事中に

「おれんちの平和は俺が守ってみせる!」

と、固い決意表明が送られてきた

さすが家を愛し

家に愛された男だ。

 

「賞味期限切れちゃった冷蔵庫の卵と豆腐も処分せなあかんわ」

すごい実用的で家庭的な表明もついてきた。

 

まぁ2、3日過ぎた程度ならへーきだろうと

話をきいてみると

1週間すぎてる。

 

「大丈夫なの?お腹壊さない?」

「俺そういうの気にしないから」

 

気にしろ。

さすがに1週間は気にしろ。

 

「火を入れればへーきー!

お鍋つくるー!」というので

見守っていると

 

「豆腐と卵しかない…」という

 

鍋とは。

 

 

「スープにするか、スンドゥブにすれば?」

「あー、なるほどドゥブね、ドゥブ」

「よく知ってますみたいな顔すんじゃねーよ、ぜってーしらねーだろ

そんな略し方聞いた事ねえ。」

「知ってるよドゥブ、で?ドゥブの作り方はやく」

「やっぱりしらねーじゃん」

 

私の職場は勤務中でも

打ち合わせさえしてなければ

スマホで友達と喋ってても問題ない環境なので

ここらへんでクスッと笑ってしまうと

 

「ぬいちゃんが友達と喋ってるなんて珍しいね」

と、何人か集まってきてしまった

 

うるせー

珍しいとかいうな

その通りだけど

 

「食中毒予防に、生姜とか一緒にたべれば?」

「生姜あるよー!賞味期限切れちゃったけど」

「ニンニクはある?」

「うん!賞味期限切れちゃったけど!」

 

この人んち賞味期限切れてないもの

なにがあるんだろう

 

「ほぼ料理しないからしかたないの」

「もう毎日するか、今後一切しないしか選択の余地ねーよ」

「でもさぁ、料理人なら賞味期限切れるのなんてなんとかできるよね」

「料理人に新スキル求めんな」

「なんとかできる気がする」

「無理だよ、冷凍でいいからアサリとかないかな?」

「あるわけねーだろ!」

 

なぜ私が怒られるのか。

 

とりあえず辛味噌と、ニンニクと

グルタミン酸さえいれときゃ

なんとかなるだろう…

 

賞味期限切れちゃったものなら

なんでもあるくせに

辛味噌はなかった

代わりにプチッと鍋(キムチ、もちろん賞味期限切れ)があった

 

 

もうそれで「それっぽいもの」に

するしかないだろう

 

 

「ニンニクいれすぎちゃった!」

 

なんであまり料理しない人は

へんなとこ思い切り良くいくのか。

 

「他の調味料でととのえよう…めんつゆとか、みりんとか…

今度は少しずついれてね

念の為、味は少し濃いめにしてね

豆腐から水が出るし、レンチンで水抜きとか

絶対しないでしょ」

「うん!絶対しない!」

 

この潔さ。

 

「余ってるお野菜とかあれば、なんでも入れて大丈夫だからね」

「うん、わかった!なんもない!」

「あーね…」

 

だいぶ適当に行ったようだが

なんとか完成したらしい

 

割と美味しそうだが

どう見てもスープな画像が送られてきた

 

 

「ドゥブ」がウケて

まわりの人達は

実況を楽しく聞いていた

 

「味見してみてね」

 

「えとね!豆腐があつい!」

 

味聞いてんだよ

温度は聞いてねーよ

あと熱いのは熱したら当たり前になる現象だよ

 

「ニンニクくさーい!」

 

味っつってんだろ!

自分でドバドバ入れたんだろ!

 

 

ここらへんで

うちの部長は

すっかりこの友人の虜になったようで

 

「ファンになりそう、変わってて楽しい子だね」と言っていた

 

エリート街道驀進して

40手前でこんな所に落とし穴があるなんて。

 

 

 

ちょうど昼休みに入れそうなメンバーは

「今日は絶対ドゥブでしょ」

「ドゥブるしかねえ」

「とりあえずドゥブって言いたい」

と、口々に出ていった

 

それを友人に伝えると

「俺より旨いドゥブ食いやがって!!!」

と、ご立腹だった

 

そして最後に

「結局んとこニンニク汁だったよ」

と言う、コメントをくれて

 

ドゥブじゃねーじゃんwww

ドゥブドゥブいっといてニンニク汁じゃんwww

と、部長はまた恋におちていくのであった。

 

「結局、食べて大丈夫だったの?」

「それは平気!もしだめだったら体が証明してくれるから!」

 

いや、体に問題が現れてる時はもう手遅れだよ。

 

仕事中だか、とても楽しい実況が聞けた。

とりあえず、友人の無事を祈る。